斉木 駿介1987 福岡県生まれ2012 九州産業大学大学院博士前期課程芸術研究科美術専攻修了主な展示に、2024「リプレイする」横浜マリンタワー(神奈川)、2023「Skip chapter」Artas Gallery(福岡)、2023「BAD TRIP VR」京都岡崎 蔦屋書店 GALLERY EN ウォール(京都)、2020「スクショする風景」Artas gallery(福岡)他浦川 大志1994 福岡県生まれ2017 九州産業大学芸術学部卒業主な展示に2024「現れる遠近、消える風景」Gallery門馬(札幌)、2023「Art Fair Tokyo 2023」Contemporary HEIS(東京)、2022「浦川大志|掲示:智能手机ヨリ横浜仮囲之図」横浜美術館(神奈川)他。主なパブリックコレクションに大原美術館、福岡市美術館、熊本市現代美術館、他デジタル・テクノロジーの急速な進展と普及により、今日の生活では、かつてない速度で大量の情報が生成・流通し続けています。あらゆる出来事が可視化・記録される一方で、その豊かさが必ずしも意味の蓄積を伴うとは限りません。むしろ、日々あふれ出る過剰なデータの奔流に晒されながら、私たちは理解をどこかで断念し、断片化された現実のただ中を浮遊し続けているのが現状ではないでしょうか。本展「(de)structure」では、デスクトップPCからAIに至るまでのテクノロジーとともに育まれてきた感覚、そしてそれに応答するかたちで生まれた絵画表現に着目し、4名の作家による作品を通じて、「解体」と「再構築」を軸とした現代の絵画的思考を提示します。スクリーン越しに形成される視覚の癖、制作と検索が並走する感性、ディスプレイの解像度やコピーペーストによる情報の変質といった要素が複雑に影響し合い、生み出された作品は、従来の平面絵画の枠を超えた新たな地平を垣間見せてくれるでしょう。斉木駿介は、現実空間およびインターネット上に散在する風景や記号を素材とし、それらを一度解体したうえで異なる文脈のもとに再構築することで、現代の視覚環境に即した絵画を制作しています。複数のウィンドウが重ね合わされたような画面構成は、リアルとヴァーチャルが錯綜する現代の「日常感覚」を捉え、日々生成されつつ忘却されていく情報の断片を、物質としての絵画に定着させます。浦川大志は、古典的な風景画における遠近法の構造を現代的に読み替え、グラデーションの線やインターネット上のイメージをコラージュ的に用いることで、新たな風景を提示します。多用されるグラデーションという視覚要素は、ものの輪郭や空間の境界を曖昧にし、画面における明確な輪郭や単一の視点を解体します。作品には、現代社会における多様な情報、複雑に絡み合う社会構造の中に生きる私たちの感覚が反映されており、情報が多層的かつ流動的に交錯する今日の視覚環境と共振する、「新しい風景画」を提示しています。清川漠《untitled》727×910 mm 2024斉木駿介《snooze》606×910 mm 2023清川 漠1996 東京都生まれ2020 女子美術大学芸術学部美術学科洋画専攻卒業主な展示に、2023「境界線上に在る」日本橋三越本店コンテンポラリーギャラリー(東京)、2023「 □からの脱却 」OFギャラリー(岡山県)、2021「境界線に鋏」銀座 蔦屋書店アートウォール・ギャラリー(東京)、2021「清川漠展」日本橋三越本店美術サロン(東京)他會見 明也2001 埼玉県生まれ2025 東京藝術大学大学院美術研究科油画研究室(修士課程)在籍中主な展示に、2024「Lurf Annual Exhibition 2024」Lurf Gallery(東京)、2024「スクライング・イン・ザ・ビルディング」ターナーギャラリー(東京)、2024「ART STUDENTS STARS vol.3」+アートギャラリー(東京)、2024「ターナーアワード2023 受賞作品展」ターナーギャラリー(東京)他清川漠は、アクリル板の裏面に塗料を施し、それを彫り起こしたのち、再びそのラインに塗料を流し込むという「獏嵌(ばくがん)」と呼ばれる独自の技法で制作を行っています。身体的なストロークの痕跡が透明な板越しに知覚される構造は、スマートフォンやモニター越しに情報を扱う現代人の視覚実感と重なります。記録と操作、視覚と触覚、内と外といった要素が交錯するその画面には、デジタルネイティブ時代の感性が凝縮されていると言えるでしょう。會見明也は、SNSやAI生成モデルを通じて得たイメージを一度デジタル上で構築し、それをエアブラシや筆によって手描きで再構成するという、アナログとデジタルを往還する制作プロセスを採用しています。彼の作品は、AIによって生成された画像の構造や偏在する視覚的言語に対して批評的な眼差しを向けるとともに、「創造すること」の根源的な意味を現代的文脈の中で問い直す試みでもあります。デジタルメディアと物質としての絵画という二項が交差するその表現には、この時代に特有の認識と想像の地勢が刻まれています。本展の試みは、各作家の手法と思考を手がかりに、断片化された現実が像、構造、風景として再構成されていく様を提示することにあります。ここに提示されるのは、もはや一人称的な視点によって統合された風景ではありません。むしろ、多方向からの視線が交差し、接続と断絶の往復運動の果てに浮かび上がる、解体された時代のフロアマップです。それは、全体を把握するための「地図」というより、私たちが立つ「現在」という場を指し示す、一時的な配置=仮設の地形図として機能することでしょう。會見明也《肯定のためのモデル[no.2]》242×410×20 mm 2024浦川大志《断片化された》900×450 mm2024
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